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なら法律事務所
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フレドリック・ブラウンの短編小説にこんな作品がある(題名は忘れた)。
男が公園のベンチに座って,うたた寝している。
彼は目覚める。
これから,恋人にプロポーズするために,恋人の家に行くのだ。
約束の時間まで少し余裕があったので,公園で時間をつぶしていて,うたた寝してしまった。
彼は,恋人の家に向かって歩きはじめる。
寝ていたせいか,足取りが少し重い。
きっと,彼女は彼のプロポーズを受け入れてくれる。
彼は,恋人と結婚して,幸せな家庭を築くことを考えて,幸福な気持ちになる。
恋人の家に着いて,ドアをノックする。
小さな男の子がドアを開けてくれる。
あれ,弟がいたっけ?
彼は,男の子に,自分の名前を名乗って,恋人がいるかどうかたずねる。
すると,男の子は部屋の奥に向かって大きな声でこう言う。
「おばあちゃん!また,おじいちゃんがボケてるよ!」
こわい話である。
彼は,人生で最も幸せだった記憶をすべて失っているのだ。
父から電話があった。
勤めている会社に退職届を出さないといけないのだが,退職届の書き方がわからないので教えてほしい,という。
私は,ゴールデンウィークにそっちへ行くので,会ったときに教えるよ,と答えて,電話を切った。
父は86才で,母といっしょにケアハウスで暮らしている。
勤めていた会社は20年以上前に退職している。
痴呆症が進んで,ときどき的外れの電話をかけてくるようになった。
電話をかけてきたとき,父の頭の中では,父は65才で会社に勤めていたのだろう。
父が16才のとき,日本は戦争に負けた。
父の頭の中で,父は16才で,戦争が終わって,進駐軍の基地でアルバイトしているとしたら,父は私が誰かわからないだろう。
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