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2015年9月8日,司法試験の合格発表があった。
今年の司法試験の合格者は1850人だそうだ。
1990年まで,司法試験の合格者数は500人前後であった。
その後,合格者数は増えていき,1999年には約1000人に,2004年には約1500人に達して,2007年には2000人を超えた。
司法試験の合格者は,2007年から2013年まで,7年間,2000人を超え続けた。
2014年は1810人,2015年は1850人である。
司法試験の合格者数が増えても,裁判官と検察官になる人数は増えない。
給与を支払う,という財政的な限界がある。
それで,弁護士だけが増える,ということになった。
弁護士の人数はこんなふうに増えてきた。
1975年 1万人突破
1995年 1万5000人突破
2004年 2万人突破
2008年 2万5000人突破
2011年 3万人突破
2014年 3万5000人突破
2015年 3万6397人(9月1日現在)
1万人から1万5000人まで5000人増えるのに20年かかっている。
その後
1万5000人から2万人まで5000人増えるのに9年
2万人から2万5000人まで5000人増えるのに4年
2万5000人から3万人まで5000人増えるのに3年
3万人から3万5000人まで5000人増えるのに3年
である。
いかに,急激に弁護士数が増えているのかがよくわかる。
司法改革では,司法試験の合格者は3000人まで増やすという目標が掲げられた。
その理由として
「弁護士の数が少ないために,国民が弁護士の司法サービスを享受できない」
「弁護士の数が増えて,弁護士間の生存競争が激しくなるとしても,他の職業でも競争が激しいのはあたりまえだ」
「競争が激しくなれば,いい弁護士が生き残って,淘汰されるだけである」
ということが官僚やマスメディアからまことしやかに言われた。
ほんとにそうだろうか?
確かに,弁護士が少ない過疎地域は減った。
日本弁護士連合会のウェヴサイトには,つぎのように記載されている。
『日弁連では地方裁判所の支部単位で弁護士登録のない地域を「弁護士ゼロ地域」,1名の地域を「弁護士ワン地域」と呼んでいます。
日弁連で「弁護士ゼロワンマップ」を初めて作成した1993年当時,弁護士ゼロワン地域は74か所ありましたが,弁護士ゼロ地域は全て解消されました。
また,2011年12月18日には,初めて弁護士ワン地域が解消されました。
その後,弁護士ワン地域が発生していましたが,2015年7月5日に再び弁護士ワン地域が解消されました。』
弁護士がゼロだと,市民は弁護士がいる遠方まで相談に行かなければいけない。
弁護士が1人しかいないと,紛争している一方がその弁護士に相談すると,もう一方は相談する弁護士がいなくなって,やはり遠方まで相談に行かなければいけない。
弁護士ゼロワン地域がなくなったということは,少なくとも弁護士が2人いるということなので,それは言祝ぐべきことなのだ。
しかし,弁護士の人数が増えて,全国津々浦々にまんべんなく弁護士が存在するようになったわけではない。
各単位会で会員数が1000人を超える単位会はつぎの7つである(2014年3月31日現在)。
1 東京弁護士会 7215人
2 第二東京弁護士会 4646人
3 第一東京弁護士会 4365人
4 大阪弁護士会 4133人
5 愛知県弁護士会 1698人
6 横浜弁護士会 1428人
7 福岡県弁護士会 1090人
以上合計2万4575人,全体の70%である。
東京,大阪,名古屋,横浜,福岡の5つの大都市に日本の弁護士の70%が集中している。
大量に増えた弁護士は大部分が大都市に吸収されてしまい,ほんの一部の弁護士が地方の過疎地に行ったのである。
弁護士間の生存競争の激化による淘汰によって,いい弁護士だけが生き残り,市民は質の高い司法サービスを享受できるようになるのだろうか。
弁護士の人数は20年前に比べると2倍に増えている。
弁護士の人数が増えると,弁護士1人あたりの事件数が減る。
弁護士の増加にともなって事件数も増えない限り,これは当たり前である。
事件数が減ると,法律事務所をつぶさないで生き残るためには,報酬の単価を上げざるを得ない。
たとえば,事件数が半分になれば,それまで10万円で受けていた事件を,20万円で受けなければ事務所がもたない。
その経済的な負担は,市民が負うことになる。
司法試験の合格者数が500人から2000人になった,ということは,「それまでは弁護士として仕事をすることが許されなかった」1500人が,弁護士として仕事をするようになった,ということである。
合格者2000人の時代が7年間続いたのであるから,「それまでは弁護士として仕事をすることが許されなかった」弁護士は1万人を超える。
競争による淘汰によって,市民が「できる」弁護士を選ぶには,「弁護士を比較できること」が前提である。
たとえば,ラーメンであれば,A店のラーメンがまずければ,つぎはA店はやめてB店に行く,ということができる。
まずい店は淘汰される。
しかし,弁護士に何回も事件を委任する市民は少ない。
たとえば,父親の遺産相続は,1回きりである。
委任した弁護士の仕事が不十分でも「こんなもんかな」で終わってしまう可能性は高い。
市民が複数の「弁護士を比較できること」は稀である。
弁護士は淘汰されず,合格者増で生まれた「できない」弁護士に委任するリスクは,市民が負うことになったのである。
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