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2011年11月から2015年3月まで奈良少年刑務所の視察委員をしていた。
委員会は2か月に1回開かれ、毎回会議の後に、提案箱の提案書を回収するために、刑務所内を歩いた。
奈良少年刑務所は、1908年に建てられた煉瓦造りの建物である。
千葉、長崎、金沢、鹿児島の各刑務所とともに「明治の五大監獄」と呼ばれたそうな。
煉瓦と石と木でできた居房は「監獄」という呼び名にふさわしい冷厳な空気を醸し出していた。
建てられてから108年が経過し、老朽化が進んで、改築または移転の可能性が探られていたようだ。
7月16日、この奈良少年刑務所に関して、朝日新聞がニュースを配信した。
「法務省が今年度で受刑者の収容を停止する一方、建物は保存する方針であることが分かった。」
「今年度末までに受刑者を県外の刑務所に移す。」
奈良少年刑務所が消滅するのか、奈良県内の別の場所に新たに建物を建設するのか、について記事は報じていない。
奈良少年刑務所は、放射状に並ぶ受刑者の収容棟が特徴である。
放射状に並ぶ線の結合点、扇の要に当たる部分に刑務官の監視席がある。
この監視席に立ったことがある。
監視席から、1階と2階のすべての居房が一望できた。
この「一望監視施設」について、内田樹さんがテクストを書いている。
紹介しよう。
ミシェル・フーコーが『監獄の誕生』で教えてくれたのは、権力関係とは煎じ詰めれば「見るもの」と「見られるもの」の位階差のことだということであった。
ベンサムの考案した「一望監視施設」(パノプティコン)という監禁システムでは、中央の監視塔から看守は施設全体の独房を見渡すことが出来る。だが、独房に拘禁されているものたちは、看守が自分を見ているのか見ていないのかを見ることができない。
フーコ-はこの建築様式の悪魔的な天才性についてこう書いている。
「パノプティコンの主要な効果は、拘禁されている者につねに『自分は見られている』という意識を抱き続けさせることである。それによって権力は自動的に担保されるのである。」
権力関係は単純に「見るもの」と「見られるもの」の間に発生するのではない。「見たり見なかったりするもの」と「自分が見られているのか見られていないのかを見ることができない」もののあいだに成り立つのである。
パノプティコンの看守は監視塔にいる必要さえない。彼らがトイレに行ってようと、TVを見ていようと、そのあいだずっと囚人たちは身をすくませている。だって、見られているか見られていないかを見ることができないからだ。
(内田樹「期間限定の思想」(角川文庫)89~90頁)
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