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この新しい仕組みを作り出しているのは20代の人たちです。新聞も読まない、テレビも観ない人たちですけれども、彼らは彼らなりに自分たちの動物的な直感で「この仕組みはもう先がない。ここじゃないところへ行って生き延びよう」と思っている。
2015年7月13日の内田樹さんのテクスト「憲法と戦争 日本はどこに向かうのか」を紹介する。
どおぞ。
でも、こういったことはすべてある意味で、自然過程なんだと思います。現実的で、プラグマティックな人たちが制度を設計し、管理運営している間はいいんです。でも、どこかで何のためにその制度があるのか起源の意味を忘れて、効率的に運営するとか、コストを削減するとかいうことが自己目的化する。そうなると、もうあとは落ちるだけなんです。必ず堕落し、腐敗してゆく。でも、腐って崩れ墜ちたあとは、また現実的な人たちが登場してきて、新しい仕組みを作る。
すでに古い仕組みに代わる新しい仕組みがあちこちで生まれ始めていると思います。ただメディアが報道しないだけで。メディアの情報収集力はずいぶん劣化していますから、これまでの枠組みにないような新しい動きについては感知することができない。それでも、感度のいいメディアの中には新しい仕組みが出来つつあることに気づいて、報道しているところもあります。どれも、まだ小さいメディアですけれど。
この新しい仕組みを作り出しているのは20代の人たちです。新聞も読まない、テレビも観ない人たちですけれども、彼らは彼らなりに自分たちの動物的な直感で「この仕組みはもう先がない。ここじゃないところへ行って生き延びよう」と思っている。
どういう動きが始まっているのかそれについては今日はもう話す時間がありません。どんな社会システムも壊れておしまいということはありません。具合の悪いところがでてくれば、必ずそれを補正する動きも出てきて、古い仕組みが壊れて、新しい仕組みが動き出す。自然な新陳代謝が行われる。
今、日本はその過渡期・移行期にいます。どの国も同じです。タイムラグはありますけれど、グローバル資本主義に最適化した社会システムを作ったことの「ツケ」をどの国もそれぞれ固有のしかたで、順番に払って行くことになる。日本だけじゃない、中国も韓国も、日本と相前後して、同じようなシステム劣化に直面することになると思います。世界的な移行期ですから。
その中で予測が立てにくいのがアメリカなんです。たしかにアメリカは凋落期にあります。でも、この国の持っている復元力は侮れない。もしかすると、アメリカはもう一回V字回復するかもしれない。と言いますのは、あの国はどこか開放的なところがあるんです。息が詰まりそうになると、誰かが窓を開ける。
僕がいつも感心するのは、ハリウッド映画なんです。ベトナム戦争から戻って来た帰還兵が頭がいかれて人を殺しまくるというパターンの映画があります。『タクシードライバー』とか『ランボー』とか。その手の映画って腐るほどあるんです。そういう国民的なトラウマ経験をアメリカ人は娯楽作品として消費することができる。そういうタフさって、他の国にはちょっと例がない。
今、もし日本でイラク戦争に行った自衛隊員が戻ってきて、頭のネジが外れて人を殺しまくるなんて映画を作ったら、すさまじいスキャンダルになるでしょう。自民党や讀賣新聞が大騒ぎして、たちまち上映禁止になる。でも、アメリカではそれができる。そこに僕はアメリカの強さを見るんです。ハリウッド映画には、大統領が殺人犯だとか、CIA長官やFBI長官が陰謀の張本人だったとか、そんな話がいくらでもあります。自分たちの国の統治機構のトップが「ワルモノ」であり、そのせいでシステムが狂うのだが、一匹狼のヒーローが登場してきてそれを食い止めて正義が回復するという話を、アメリカ人は毎年何十本と作って、享受している。
このカウンターカルチャーの厚みは他国に見ることができないものです。「自分たちの国はたいした国じゃない」という人たちがいて、「いや、たいした国だ」という人たちがいて、その葛藤がアメリカ社会の深みと奥行きを形成している。カウンターカルチャーがアメリカの堂々たる文化資源として発信され、巨大なビジネスとして成立し、さらにそれがアメリカに対する評価を高めている。
1975年にベトナム戦争が終わりますけれども、あの時代の世界は反米気運に満ちていました。日本の若者たちもアメリカの政策が大嫌いだった。でも、70年代の終わりまでには、その反米気運が嘘のように消えてしまった。それはアメリカのカウンターカルチャーの力だったと思います。ヒッピー・ムーヴメントやドラッグ・カルチャーやロックや西海岸の生活文化や、そういうものが日本に流れ込んできた。アメリカのカウンター・カルチャーにとってベトナム戦争や人種差別をしているアメリカのエスタブリッシュメントは端的に彼らにとっての「敵」なんです。僕たち日本人と帝国主義的アメリカを「敵」としている点では変らない。そこで共感しちゃうんです。だから、日本の若者たちは、反米の政治運動をしながら、アメリカのロックを聴き、レイバンのグラスをかけ、ジッポで煙草に火を点け、リーバイスを穿いて暮らしていた。アメリカはそうやってアメリカ政府の政策には反対だけれど、アメリカのカウンターカルチャーには共感するという数億人の「アメリカ支持者」を世界中に作りだした。それが結果的には「あれほど反権力的な文化が許容されているって、アメリカってけっこういい国なんじゃないか」というアメリカ評価につながってしまった。「ソ連にカウンターカルチャーはないけど、アメリカにはある」。最終的には東西冷戦でアメリカが勝った理由はそこにあるんじゃないかと僕は思っています。
こんな二重底構造を持った国というのは、今のところ世界にアメリカしかない。だから、アメリカは、軍事力や経済力は衰えても、文化的には創造的であり続ける可能性があると思います。僕が「アメリカの復元力」というのはそのことです。
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