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20世紀の発明、白熱電球、無線電信、内燃機関、電話、映画などは人々の生活を一変させ、大きな経済成長をもたらした。
でも、インターネットは消費者の日常生活のありようを大きく変えはしたけれど、経済成長への影響は限定的なものにとどまった。
なぜか。
2017年8月28日の内田樹さんのテクスト「経済成長という呪い」を紹介する。
どおぞ。
ダニエル・コーエンの『経済成長という呪い』という本を車中で読んでいる。経済成長の鈍化と21世紀の世界についての分析である。
中心的な問いの一つは、なぜデジタル革命は経済成長に大きな影響を与えなかったのかというものである。
20世紀の発明、白熱電球、無線電信、内燃機関、電話、映画などは人々の生活を一変させ、大きな経済成長をもたらした。
でも、インターネットは消費者の日常生活のありようを大きく変えはしたけれど、経済成長への影響は限定的なものにとどまった。
なぜか。
理由の一つはインターネットのサービスが基本的に無料だということである。
インターネットで金儲けをしようと思ったら、「オールド・エコノミー」の手法に戻らなければならない。ネットを広告媒体に使ったり、関連商品に誘導したりするのは、ハイウェイの路肩にペンキで手書きの看板を立てるようなものである。
それに、インターネット関連ビジネスはあまり雇用創出にも寄与しない。
グーグル、フェイスブック、ツイッターの三社合わせた雇用は自動車メーカー一社に及ばない。
いわば「きわめて高い報酬を得る一握りの人々が、貧者が消費する財を無料にするために働いている」ようなものだと著者は言う
この構造が経済成長を枯渇させ、「定常状態」をもたらす。
コーエンの分かりやすい図式を紹介しよう。
規模が等しい二つの部門からなる経済があるとする。A部門でも、B部門でも100人の労働者が働いている。今、新しいテクノロジーの導入でA部門の雇用が完全に破壊された。A部門で働いていた労働者はB部門に移行するしかない。これにはかなりの時間がかかるが、移行が完了すると、B部門で働く労働者数は2倍になる。
これは20世紀に起きた農業から工業へ、あるいは製造業からサービス業への移行モデルに近い。
さて、デジタル化によって1980年から2030年までの50年間に同じことが起きたとする。
「経済活動の半分を担うA部門の労働生産性は向上し続ける。というのはソフトウェアのおかげで、それまで100人で働いていたのに、最後はたった一人で稼働させられるからだ。」
(ダニエル・コーエン、『経済成長という呪い』、林昌宏訳、東洋経済新報社、2017年、111頁)
仮に労働者一人の生産をGDP1単位で表すとする。移行前のGDPは労働者が200人いるから、200である。では、50年後のGDPはどうなるか。
A部門では労働者がもうほとんどいないけれど、機械に置き換わっただけなので、GDP100単位はそのまま。B部門は労働者が2倍になったので200単位。併せて300単位。つまり、GDPは50年で50%増加したことになる。
ただしこれは年率換算すると0.8%。現実と近い値になる。
この例では生産性が上がるのはA部門だけで、B部門の労働生産性はまったく向上しない。A部門の莫大な利益を独占する「一人だけ残ったシステムの稼働者」はGDPの3分の1を稼ぎ出している。仮にこの一人が売り上げの半分を利益として手にしたとすると、彼は一人でGDPの15%を所有することになる。これはアメリカの実情にきわめて近い。
「アメリカは二つの国を一つにした国家だ。一つは、アジア諸国のような成長率を謳歌する国だ。そこでは全人口の1%にあたる最富裕層が暮らし、この30年来、彼らの経済成長率はおよそ7%だ。もう一つの国には残り99%が暮らし、彼らの経済成長率は、『ヨーロッパ型』の1〜1.5%だ。そして、経済が少しでも失速すると、全人口の90%の経済成長率はゼロになる。」(同書。114頁)
どうです。なかなか面白いでしょう。
さ、新幹線の時間が近づいてきたので、続きはまたのちほど。