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新党は反立憲・独裁志向の安倍自民党のさらに右に、自民党以上に新自由主義的で排外主義的な新政党が「受け皿」として登場しようとしている。
2017年10月3日の内田樹さんのテクスト「昨日の朝日新聞への寄稿」を紹介する。
どおぞ。
昨日(10月2日)の朝日新聞にやや長めのコメントを寄せた。
総選挙について。日替わりで事件が起こるので、書いた段階では立憲民主党の結党のニュースはまだ知られていなかったので、それについては言及がない。
北朝鮮ミサイル問題で政権の支持率が回復し、野党第1党の民進党は離党ドミノで弱体化しているのを好機と見て、安倍晋三首相は国会解散を決めました。
ところが、思いがけなく小池百合子・東京都知事の新党が登場し、そこに民進党が合流することになって、いきなり自民党は政局の主導権を奪われてしまった。
しかし、個人的にはこのカオス的状況を歓迎する気分にはなれません。
民進党の議員たちはこれまで主張してきた「安保法制反対・改憲反対」を棄てて180度逆の立場に立たなければ公認されないという「踏み絵」を踏まされようとしています。新党は反立憲・独裁志向の安倍自民党のさらに右に、自民党以上に新自由主義的で排外主義的な新政党が「受け皿」として登場しようとしている。
ただし、これは世界的な傾向であって、日本だけの特殊事情ではありません。世界中どこの国でも、「理解も共感も絶した他者との気まずい共生」という困難な道を拒絶して、仲間うちだけで固まり、仲間うちの利益だけを優先する「身内ファースト」的な政治勢力が大衆的な支持を得つつあります。英国のEU離脱も、トランプ大統領の登場も、ドイツ連邦議会でのAfDの進出も、希望の党も同じ文脈の中の出来事だと私は解釈しています。
これは現に起きつつある地殻変動的な変化が理解できず、対応することもできないおのれの無能と不安ゆえの退行的な選択であって、外界の出来事に目を閉じ、耳を塞いで、「変化なんか起きてない」と自分に言い聞かせているに過ぎません。ですから、遠からずあまりに変化の速い状況に追い抜かれ、押し寄せる難問に対処できずに、その無能をさらすことになるでしょう。
ここでいう「地殻変動的な変化」というのは、国際政治における超覇権国家の衰退と「地域帝国化」、そして地球的規模での人口減のことです。
地域帝国化は半世紀スパンでの変化ですから、今すぐどうしなければならないというような喫緊の課題ではありませんが、少子・高齢化による社会の変化はすでに日本を直撃しています。21世紀末には人口は5千万人程度にまで減ると推定されています。80年間で7千万人減です。人口減と高齢化に伴う産業構造・社会制度の変化は想像を絶した規模のものになるはずですが、それにどう備えるかという危機感は国民的にはほとんど共有されていません。政府もまったくの無策で手をつかねている。
その危機の切迫のうちにありながら、安倍政権は森友・加計問題に露出したようにネポティズム(縁故主義)にすがりついています。イエスマンだけを登用し、限られた国民資源を仲間うちに優先的に分配する仕組みです。これは「身内ファースト」という世界的なスケールでの政治的退廃の日本版です。安倍首相がもともとそういう排他的なパーソナリティであるということと世界史的なネポティズム傾向があいまってこれまでの長期政権がありえたのです。
しかし、安倍自民党に対抗して登場した小池新党も、「身内ファースト」であることに変わりはありません。民進党との「合流」プロセスで見られたどたばた騒ぎで明らかなように、小池代表の軍門に下ったのは、政策の一貫性を振り捨てても「わが議席」の確保を優先させていてる「自分ファースト」の人たちばかりでした。これまで掲げて来た政策の一貫性や論理性よりも、おのれの「明日の米びつ」を優先的に配慮する政治家たちが、今切迫しつつある文明史的な転換に対応できる能力があると私は考えません。
日本はしばらくカオス的状況が続くでしょう。でも、それは世界中どこの国でも程度の差はあれ同じことです。「他の国もひどいことになっている」と言われて心がなごむというものではありませんが。