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日本はアメリカの軍事的属国であり、自前の安全保障構想を持っていないので、アメリカからの自立、主権の奪還が国家的急務である
2019年2月8日の内田樹さんの論考「憲法と自衛隊(前編)」をご紹介する。
どおぞ。
元陸将の渡邊隆さんと憲法と自衛隊をめぐって対談した(MCはかもがわ出版の松竹伸幸さん)。
自衛隊制服組の人とはこれまで何度か話をしたことがある。防衛研究所で2012年から14年まで3年連続で講演を頼まれたのである。
依頼があったのは防衛研究所教育部から。特別課程研修での講演を頼まれた。演題は日本の安全保障についてということだった。
特別課程研修に参加するのは陸海空自衛隊の一佐たち。
「今後、行政部局で中心となるであろう将官直前の自衛官 等に資質涵養的な講演をして頂けないか、との希望です」と依頼書にあった。
幹部自衛官たちの前で安全保障についての私見を述べてもいいというお話である。こちらからすがりついてお願いしたってできるはずもないことを先方から「やって」と言ってきたのである。二つ返事で引き受けた。
それにしても、どうして私のような安全保障のど素人に講演を依頼してきたのか・・・とちょっと考えたのだけれど、考えても仕方がないので、とりあえず防衛研究所に行った。
そして、所長(シビリアン)と教育部の方たち(制服組)と講演の前にちょっとだけお話して、自衛官にはできるだけ広い視野でものを見るように教えているという説明をうかがった。
ならばここを先途と、日本はアメリカの軍事的属国であり、自前の安全保障構想を持っていないので、アメリカからの自立、主権の奪還が国家的急務である・・・というような「いつもの話」を2時間話して、ぴゅんと逃げ帰った。
僕を呼ぶことを提案した教育部の方は「なんであんなのを呼んだんだ。責任とれ」とか言われてひどい目に遭っているんじゃないかと心配したけれど、どうすることもできない。
ところが、驚くべきことにその翌年も講演依頼があった。
今度は所長が替わっていて、名刺交換のときに「前任者はどうしてこんなのを呼んだのだろうか・・・」といささか懐疑的なまなざしでみつめられたけれど、終わったあとに所長室でお茶したときに、破顔一笑して「いや、面白かったです。来年も来てください」と言われた。
そして翌年も講演をした。
このまま続くのかなと思ったけれど、2015年の夏にはお呼びがかからなかった。
たぶんその頃に官邸に知れてしまったのであろう(よう知らんけど)。
というわけで、制服組(元ですけど)の方とお話するのは5年ぶりということになる。
渡邊さんは最初のカンボジアPKOの大隊長だった方である。はなばなしい累進を遂げて東北方面総監をして退職されたエリート自衛官である。
自衛官というのは徹底的に「現場の人」であって、机上の空論には興味を示さないし、「正解」にも興味を示さない。彼らはいまここにある具体的なトラブルにどう対処し、どうやって被害を最小化するかということに優先的に知的資源を投じる。
だから、「論争的な自衛官」というのは、基本的にいないはずなのである(時々いるけれど、あれはかなり例外的な存在だと思う)。だって、「争い」をどうさばくかを本務とするテクノクラートが自分で問題を起こしたり、問題に火を注ぐということは定義上ありえないからである。
渡邊さんは案の定まったく論争的なタイプの人ではなかった。
言うべきことは言うけれど、決してそれが論争的なマターにならないように最大限の注意を払っている。みごとに紳士的なマナーだと思った。
対談とはいえ、せっかくの機会なので、専門家にあれこれと訊いてみたいことを訊いてみた。
自分から投げたトピックは一つだけ。
それは「憲法九条の規定と現実の自衛隊の存在の間に齟齬があるということが改憲運動の第一の理由としてあげられているが、憲法の規定と現実の間に齟齬があることなんて、当たり前のことなので、うるさく論じるには当らない」というちゃぶ台返しのような話である。