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なら法律事務所
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書物は「外部」への扉である。
2019年12月31日の内田樹さんの論考「今年の10大ニュース」(後編)をご紹介する。
どおぞ。
4・今年も韓国に行った。
2012年から始まった恒例の韓国講演ツァーに今年も行った。
去年からは伊地知先生が率いる「修学旅行部」も同行することになって、厚みのある企画となった。今年はソウルと大田で僕が講演し、済州島で修学旅行という3泊4日の日程だった。通訳はいつもの朴東燮先生。
「戦後最悪」という日韓関係のせいで、例年のように教育委員会の公式招聘ということがかなわず、市民団体の主催ということになった。それでも、たくさんの方たちが集まってくださった。
僕の本は朴先生の獅子奮迅の活躍のおかげで、ついに26冊が韓国語訳されたそうである。日韓関係が市民同士の相互理解を通じて確かなものになることを僕は願っている。
5・武蔵小山にセカンドハウスを借りた
2020年の東京五輪を前にして、東京のホテルが借りにくくなっている。僕の定宿だった学士会館も昔に比べると予約が取りにくくなったし、お盆と正月が休業というのがつらい。どうせ毎月東京に理事会で行き、その前後に東京での仕事を入れる。急な用事で東京に行かなければならないこともよくある。意を決して部屋を借りることにした。
どこがいいか。土地勘のあるところと言うと20歳から20年間を過ごした自由が丘、尾山台、上野毛という大井町線沿線か、17歳まで育った下丸子周辺の目蒲線沿線である。
井上英作さんに専門的な助言を頂いて、いくつか紹介してもらい武蔵小山に決めた。
武蔵小山なら駅前に石川茂樹くんのLive Café Againがあるし、7~8分歩くと、平川君のいる荏原中延の隣町珈琲がある。両方に歩いていけるところにマンションを借りた。
内装は東京住まいのるんちゃんにお願いした。
「昭和の大学生の下宿みたいな内装にしてあげるよ」ということで、お任せしたら、たしかにそんな感じになった。たいへん居心地がよろしい。
東京五輪が終わるまでの期間限定のつもりだったけれど、なかなか使い勝手がいいので延長することにした。ホテルだと朝の10時にはチェックアウトだけれど、自分の部屋なので、パジャマのまま昼過ぎまでだらだらしていられる。着替えも、PCも、背広とネクタイも置いてあるので、東京旅行が鞄ひとつで済む。本もDVDもある。連泊するときはまことに楽ちんである。大学の理事はまだもう少し勤めなければいけないようなので、2022年くらいまではムサコの人である。
6・山學院学長となる
青木真兵君と海青子さんご夫妻が東吉野村に開いた私設図書館「ルチャ・リブロ」を拠点として、地域文化活動が盛んになっている。その一環として、真兵くんが仲間たちと東吉野村に「山學院」という学術拠点を作ることになった。
その学長を仰せつかった。
若い人の創造的な活動を支援するのは年長者の義務であるから、四の五の言わずに拝命した。
6月に山學院開校式があり、日本全国から70人の善男善女が集った。
地方に移住して、そこから市場経済と一線を画した手作りの活動をしている人たちが多かった。
真兵くんたちのは「ひとり図書館」だが、日本各地に「ひとり書店」や「ひとり出版社」があることをそのとき知った。別に誰かが言い出した運動ではなく、同時多発的・自然発生的にそういうことが起きているのである。
書物は「外部」への扉である。
そのことを直感している若い人たちがこれだけいることを知った。
日本はまだまだ大丈夫である。
真兵君たちの実践については『彼岸の図書館』に詳しい。僕も真兵くんといろいろお話してます。ぜひご一読ください。
7・もうひとつ
もう一つ、別の新しい大学の客員教授となることになった。
まだ開学前なので、詳細を申し上げることはできないけれど、面白い教育実践ができそうである。
8・すごい若い人たちを知る
矢内東紀(aka えらてんさん)さんと中田考先生のご紹介で知り合い、機を見るに敏なる晶文社の安藤さんの企画で一緒に対談本を出すことになった。
その趣旨についてはブログに「まえがき」を上げたので、それを読んで頂ければわかると思うけれど、こういうまったく僕の知らないエリアで活動してきた若い人には教えられることがほんとうに多い。
Time has changed ということを実感した。
もう一人それを実感したのは、永井陽右さん。
これは朝日新聞のネットメディアの企画で対談したのだけれど、この方もえらてんさんと同じく28歳の青年。
ソマリアで「ギャングが堅気になるための就労支援」という信じられないほど危険な活動をしている若者である。
でも、別に肩に力が入っていない。穏やかな表情と明るい声で、淡々と困難な事業について話してくれた。たいしたものである。
もう一人はまだお会いしたことがないけれど、齋藤幸平さん。
『未来への大分岐』という集英社新書がある日送られてきた。集英社の伊藤直樹さんが選んで送ってくれるので、彼の鑑定眼にかなった本のはずである。そのうち読もうと思って、テーブルの上に置いておいた。すると光嶋君が読んで驚いたという感想をTwitterに書いていたので、「おお、その本ならうちにもあるぞ」と思って探して開いてみたら、齋藤幸平さんの直筆サイン入りの献本だった。
こ、これは失礼なことをした。
さっそく読んでみて、これも仰天した。
若い人は僕たちおじさんたちの知らないうちに、どんどん新しい知的な領域に踏み込んで行って、世界的な業績を上げているのである。
もって瞑すべし。
こういう若い人たちの活躍を知ると、「もう引退してもいいかな」という気になる。ありがたいことである。
9・今年もいろいろ本を出した
成瀬雅晴先生との対談本『善く死ぬための身体論』(集英社新書)
『生きづらさについて考える』(毎日新聞出版)
『そのうちなんとかなるだろう』(マガジンハウス)
平川克美君との対談本『沈黙する知性』(夜間飛行)
えらてんさんとの対談本『しょぼい生活革命』(晶文社)
の五冊。
来年は『サル化する世界』(文藝春秋)が年明けに出て、晶文社のアンソロジー『日韓関係論』が出て、るんちゃんとの往復書簡本、ミシマ社の語り下ろし本『日本習合論』くらいかな。『レヴィナスの時間論』は年内完結予定だったけれど、ローゼンツヴァイクを論じ始めたので、なかなか終わらない。なんとか、来年のうちには終わらせて、完結したら新教出版社から単行本。まだ何か忘れているかも知れないけれど、それはご容赦ということで。
これくらいでいいかな。10個ないけど。
では、皆さん佳いお年をお迎えください。