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彼の手法はいくつか基本的な政策を掲げて、その点に同意してくれる相手とはだれとでも組むというやり方ですね。
2020年4月10日の内田樹さんの論考「『山本太郎から見える日本』から」(前編)をご紹介する。
どおぞ。
『山本太郎から見える日本』(ele-king)という山本太郎研究書にインタビューが載った。全体の4分の1ほどを一部を「予告編」として再録。
■山本太郎を支持する理由
──山本太郎を支持するようになったきっかけはなんだったのでしょう?
内田 はっきり注目するようになったのは3・11の後です。俳優だった人が政治的な発言をするようになったとたんに干されて仕事がなくなってしまったと聞いて、日本の芸能界はひどい世界だと思いました。そこで闘っているのは偉いと思って、ひそかに遠くから応援していました。その後、彼が参議院議員になって2~3年目のころかな、凱風館で公開で対談することになったんです。オープンマインドで、とてもフレンドリーな方だったので、すっかり気に入って。いやあ、いい奴だなと(笑)。
彼の手法はいくつか基本的な政策を掲げて、その点に同意してくれる相手とはだれとでも組むというやり方ですね。そういうタイプの政治家は日本では左派、リベラルには非常に少ない。むしろ、あらゆるトピックについて「これだけは譲れない」という綱領を掲げて、その非寛容さを思想的な純粋さだと勘違いしている。そうやって「すべてに同意する人間だけと組む」という「踏み絵」のようなことをやる。「小異を捨てて大同につく」ということが日本の左派、野党はとにかく苦手ですね。だから、四分五裂している。ある種の潔癖さみたいなもので、政治家としての清潔さと表裏一体でもあるので、一概に否定はできないんですけれど、自民党はそこらへんがずさんでしょう。昨日まで反対していた政策に一夜にして賛成したりというようなことは日常茶飯事で、とにかく政権にしがみついていられるためならなんでもやる。その政治的な無原則のせいで現に巨大勢力を形成している。野党が結集して、自民党に対抗できる政治勢力になるためには、ある程度は自民党の組織戦術に学ぶ必要がある。政策の優先順位を決めて、大筋で合意できたら、細部については細かいすり合わせをしないで、後回しにする。そういうことが野党が苦手なんです。でも、山本太郎はその点が例外的です。彼はイデオロギー先行で政治家になった人じゃないから。いま目の前にいる困っている人たちを支援するための「手段として」政治がある。その辺の割り切り方は他の野党政治家にはなかなか見られない。
──立憲とは距離があるように見えます。彼は野党分裂の原因になっているのでしょうか?
内田 山本太郎は別に野党を分裂させる気はないと思う。ほんとうは立憲民主党が中心になって野党共闘をするべきなんです、最大野党なんだから。でも、いま野党共闘を強く牽引しているのは山本太郎と共産党じゃないですか。国民民主党と立憲民主党はどちらも野党共闘に積極的であるようには見えない。党名がどうだとか、細かいことを言っている。もともと同じ政党にいた連中が再統合するだけでこれだけ揉めている。今、目の前にある具体的な政治的課題にどう取り組むかより、自分の議席をどう守るのかという方に気持ちが向かっている。国民と立憲の争いって、「野党第一党はどっちだ」という争いでしょ。そんなレベルの低いことで争ったってしょうがないじゃない。政権を狙いに行けよと思うんだよね。その意欲がないところに山本太郎もイラついているじゃないですか。
――前回の参院選では、本人は落ちてもれいわの躍進をとるという闘い方でした。
内田 山本君自身は議席をとろうと思ったら、どこだってとれる。衆院でも参院でも、どこかの補選に出ればたぶん当選するだろうし、知事選だってどこでも通るんじゃないかな。