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今から80年間で、7600万人減る。年間90万人ペースです。高齢化もこの後進みます。2065年には高齢化率が38.4%、3人に1人は65歳以上いう社会になります。そういう時代を経由して、日本の総人口が5000万人を切る社会を迎える。
2022年1月12日の内田樹さんの論考「ポストコロナの時代を生きる君たちへ」(その2)をご紹介する。
どおぞ。
日本が人口減少局面にあることは、高校生のみなさんもよくご存じでしょう。日本は2008年の12800万人をピークにして、人口が急激に減りだしています。おそらく学校の授業でも教わっていると思いますが、厚労省の試算では2100年、今から80年後の日本の人口ですね、高位推計で6800万人、低位推計で3800万人、中位推計で4850万人です。多分このくらいに落ち着くだろうというあたりでも5000万人を切るんですね。今から80年後ですから、みなさんのうちの何人かは生きて22世紀を迎えることができると思いますが、その時の日本の人口は5000万人を切っているんです。今から80年間で、7600万人減る。年間90万人ペースです。高齢化もこの後進みます。2065年には高齢化率が38.4%、3人に1人は65歳以上いう社会になります。そういう時代を経由して、日本の総人口が5000万人を切る社会を迎える。
みなさんが今どこの学校に進学しようとか、どんな職業に就こうかとか、考えているわけですけれども、それを決める時に、一番考えなければいけないことは、日本はこれから急激に人口が減るということです。短期間にこんな急激な人口減を経験した国は歴史上存在しません。だから、どうしたらいいかわからない。誰も知らない。人口減の局面にどう対処したらいいか、成功事例が歴史上にはない。そういう「どうしたらいいかわからない時代」にみなさんは突入してゆくんです。
そんなこと言うとびっくりするかもしれません。なぜ、そんな大事なことなのに、みんなもっと真剣に議論しないんだろうかと、疑問に思うでしょうね。本当にそうなんです。議論しないんです。どうしてこうなったのか原因を探り、現状はどうなっているのかを調査し、どう対処するのか政策を立てるためのセンターが今の日本政府部内には存在しないんです。この巨大な問題に対処するための政府機関がないんです。たしかに「少子化対策」とかはあります。婚活を支援するとか、保育所を増やすとか、教育を無償化するとか、そういうことをしていますけれども、人口減というのはそんな目先の政策でどうこうなる話ではないんです。
人口減少は止まりません。このことをきちんと受け止めて、それによって産業や教育や医療がどう変わるのか、きちんとした見通しを立てて、これからこうなりますよと、国民にアナウンスする必要があります。
人口減社会のあり方については、いくつかのシナリオがあり得ます。そのシナリオのうちのどれがよいかについて、国民全体で議論して、合意をかたちづくること、それが必要です。日本列島に住むすべての人に関わる大問題です。
ところが、この問題についての国民的な議論がまったく行われていない。メディアは時々思いついたように人口問題について報道しますが、深く掘り下げるということをしていない。真剣に取り組んでいない。政治家もメディアも、どうしたらいいのか、わからないんです。これまで人類が経験したことのない問題だから。何が起きているのか、どうしたらいいのか、わからない。この問題と向き合い、それに対して然るべき政策を立てることのできる構想力がないのです。現代の日本の指導層にはそれを考えるだけの力がない。
でも、これは日本だけの話じゃないんです。お隣、韓国もすでに2年前2019年に人口がピークアウトして、これから急激な人口減、高齢化局面を迎えます。あと40年くらいで、日本を抜いて、世界一の高齢社会になります。
そして、中国です。どうして、中国政府が教育政策において、これまでとは全く違う方向に舵を切ったのか。これも人口減が理由ではないかと僕は思っています。中国は6年後2027年に14億人でピークを迎え、それから急激な人口減少と超高齢化時代を迎えます。年間500万人ペースで人口が減ります。生産年齢人口、15歳から65歳までの人が2040年までに1億人減り、代わりに65歳以上の人口が3億2500万人にまで増える。
中国は2015年まで「一人っ子政策」を実行していましたから、人口構成がひどくいびつです。男女比も均等ではありません。ですから一人っ子で、配偶者がいない人の場合、親が死ぬと、妻も子も兄弟姉妹もいない天涯孤独の身となる。これまでそういう場合のセーフティネットとしては親族ネットワークがありました。生活が苦しくなったら、親族を頼ることができた。でも、一人っ子政策と人口減で、その親族ネットワークが成り立たなくなった。中国には日本のような社会保障制度がありません。これを短期間のうちに作り上げなければ高齢化に対処できない。
これまで急増する人口が潤沢なマンパワーと巨大な市場を提供してきた中国ですが、その経済成長のエンジンであった「いくらでも働く人間がいる」という条件がこのあと失われる。2027年からそれが始まります。若い人たちの人口が急激に減って行く中で、中国が国力を維持しようとしたら、子どもたちを過酷な競争に放り込んで、勝ち残った者にすべてを与えて、負けた者たちは消えるに任せるというような手荒な選抜を続けることはできません。とりあえず手元にいる子どもたちすべてに等しく良質な教育機会を提供して、ひとりひとりのパフォーマンスを上げるしか手立てがない。国民一人一人の力を、取りこぼすことなく引き出すことが必要になる。そうなると、ペーパーテストの点数だけで子どもたちを選別するというような雑なことはできない。
中国にはかつて科挙という制度がありました。ペーパーテストで高得点をとる人たちを登用して、権力の中枢に据えた。この人たちは確かにたいへんな人文学的知識を備えていましたけれど、それ以外の大多数の人は全く文字も読めなかった。そういう制度のせいで、清朝は国力を失って滅びた。だから、近代中国では、できるだけ多くの国民が等しく学校教育を受けられる仕組みが作られました。でも、最近になってまたペーパーテストの勝者に権力も財貨も集中するという、昔の科挙みたいな仕組みが復活してしまった。だから、またそれを抑制して、国民全員がそれぞれの多様な才能を開花させるという軌道修正が行われることになった。たぶん、そういうことではないかと思います。
中国政府は14億の国民を統治しなければいけないのですが、これは19世紀末の世界人口と同じ数です。そんな数の国民を擁する政体を統治したことのある人は過去におりません。だから、中国のトップも必死だと思うんです。たぶん、ものすごく頭のいい人たちが、僕らでは想像できないくらいIQの高い人たちが統治システムを設計しているんだと思います。たしかに中国は時々暴走しますけれど、小手先のことはしません。やる時はいつも巨大なスケールの実験をする。ですから、今回の教育改革も巨視的な見地に立って行われたものだと思います。