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内田樹さんの「ポストコロナの時代を生きる君たちへ」(その4) ☆ あさもりのりひこ No.1115

今は、同世代の間で相対的な優劣を競って、足を引っ張り合っていたら共倒れするという環境です。だから、頭を切り替えなければならない。競争から共生に頭を切り換えなければならない。

 

 

2022年1月12日の内田樹さんの論考「ポストコロナの時代を生きる君たちへ」(その4)をご紹介する。

どおぞ。

 

  

 ここは英語探究科で、英語に力を入れた教育をしているそうですね。でも、君たちにとって一番大切なのは受験勉強じゃないんです。情報を取ることです。高校生にとって有益で必要な情報はネット上にいくらでもあります。みなさんは一般の高校生より、英語発信の情報に触れて、それを噛み砕いて説明できるスキルを身につけているはずです。だったら、それを活用してほしい。日本のマスコミで情報を採っているだけでは、日本でも世界でも、何が起きているのか分かりません。ポストコロナの時代に何が起きるのか、まったくわかりません。英語科のみなさんには、ニューヨークタイムスのネット版をぜひ読んでほしいと思います。大した額ではないんです。月額2千円くらいです。高校生にはきついか。(笑)でも、払わなくてもTwitterでリードくらいは読めますから。とりあえず見出しだけでも読んでおけば、いま世界に起きていることがわかります。

 君たちがさしあたり直面するのは、受験と雇用です。何を勉強したいのか、決めるのは自分です。大事なのは何をしたいかです。この学術領域に進むと、将来的に安定した職業に就けるというような動機で専門を選ぶべきではありません。それだと自分の持っている潜在能力の100%までしか出せません。100が上限です。でも、人間は潜在能力の150%とか200%とかまで出そうと思えば出せるんです。自分で想像している以上の能力を発揮できる。そのことに寝食忘れて熱中する。面白くてしょうがないという時に、その人の潜在能力が爆発的に発揮されます。

 先ほど日本の将来が悲観的であることを言いましたが、それをV字回復させる可能性を持っているのは、君たちです。君たち一人一人が100の期待値を150200にする。それをしてくれたら、日本の再生は実現できます。

 実際には自分の能力の100まで出し切っている人さえそれほど多くはありません。この学校も「いじめ」はあると思いますけれど、それは本当に許しがたいことだと思います。君たちの級友たちは、これから社会を共に支えてゆくたいせつなパートナーなんです。その人たちがいずれ発揮できるかもしれない能力を損なってどうするんですか。追い込んで生きる気力をなくしたり、学校に来なくなったりするのは、同世代全体にとっての損失なんです。だって、この仲間だけでやっていくしかないんですから。競争して、勝った者が「総取り」して、負けた者は何ももらえない。そういう新自由主義的な考えと「いじめ」はなじみがいいんです。競争で勝つことだけが大事であるなら、競争相手である同世代の全員が心に傷を負ったり、生きる意欲を失ってくれている方が競争に勝つチャンスは高まる。だから、競争で勝つことが最優先するという社会は、どんどん集団としての生きる力が衰えてゆく。

 でも、君たちがこれから迎える時代はほんとうに厳しい時代になります。お互いに足を引っ張り合う競争なんかしていたら共倒れです。周りを見渡して、隣にいる人がどんな才能を持っているか、どんな資質があるのか、まだ発揮していないどんな力があるのか、それを見出して、どうしたらその才能が開花するのか、それを考える。それが一番大事です。集団として能力を発揮するのです。人間は一人では何もできません。僕たちが価値あるものを創り出すことができるのはさまざまな人たちとコラボレーションすることを通じてです。

 だから、同年代の仲間が大事になります。ただの友だちでいるのとは違います。一緒にチームを組んで、共同作業でお互いに手持ちの100を超える能力を発揮する。そういう価値創造的な働き方をこれからはしなければいけない。ですから、隣にいる仲間を見て、さあ、どうやったらこの人が機嫌よく働いて、次々と新しいアイデアを生み出してくれるか、それをどうサポートしたらよいのか、それを君たちの世代はまず考えないといけないんです。

 僕らの世代は競争的な環境でした。周りを蹴落として出世することが奨励されていた。なにしろいくらだって若い人はいたわけですし、どんどん経済成長していましたから、勝者が総取りして、敗者には何もやらないというようなワイルドな競争をすることができた。

でも、今は環境が違います。環境が変わった以上、生存戦略も変わります。国民同士を競争させていれば国力が上昇する時期もあるし、そんなことをしたらむしろ国が衰退するという時期もある。今は、同世代の間で相対的な優劣を競って、足を引っ張り合っていたら共倒れするという環境です。だから、頭を切り替えなければならない。競争から共生に頭を切り換えなければならない。

 

 君たちはもっと利己的になっていいんです。どうやって自己利益を最大化するか、それを考えたら、周りの人といっしょに協力して、集団全体としてのパフォーマンスを上げることが必須だと気がつくはずです。