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でかい商売をしてビッグになりたいという人はご不満だろうが、私はおおかたの企業活動は「小商い」でいいのではないかと思う。
2022年1月28日の内田樹さんの論考「メディアを支えるのは誰か?」をご紹介する。
どおぞ。
「中日新聞」1月20日に寄稿したもの。メディアの存立条件について。
メディアの存立条件は何かということを考えさせられる出来事が二つ続いた。
一つは読売新聞大阪本社が大阪府と「包括連携協定」を結んだという事件。一つは独立系メディアのChoose Life Project (以下CLP)が立憲民主党から制作会社を迂回して高額の支援を受けていた事実をサポーターに秘匿していた事件である。象と鼠ほどに事業規模の違う二つのメディアだけれども、根にあるのは同じである。それは「メディアは誰の支えによって存立すべきなのか?」という問題である。
理屈を言わせてもらうが、あらゆる企業活動は、それが提供する商品やサービスについて「継続的にこれらの商品やサービスが提供されることを願う」という人たちの個人的な支援によって営まれるべきだと私は思っている。その支援者たちが受け取る「配当」は、その企業が存続し、事業を継続できていて、それが提供する商品・サービスを享受できているという事実そのものである。私はこの「定常経済」の考え方に深く共感する。
私自身いくつかの小さな事業に出資して、そのサポーターになっている。独自な出版活動を展開しているミシマ社にも、天然酵母でパンとビールを作っているタルマーリーにも、旧友平川克美君の経営する不思議な喫茶店隣町珈琲にも、凱風館門人の野村俊介君の仙霊茶の茶園にも貧者の一灯を献じている。もちろん、そんなふうにしてかき集めた「小銭」だけでは先方も「小商い」以上のことはできない。でかい商売をしてビッグになりたいという人はご不満だろうが、私はおおかたの企業活動は「小商い」でいいのではないかと思う。固有名を持つ人の手のひらの汗がにじんだコインやお札で事業をする方がいい。その事業が継続することを心から望んでいる人たちに支えられて活動をする方がやる方だって気分がいいと思う。誰に遠慮することもないし、誰に頭を下げることもない。
読売新聞は行政を「金主」に選んだ。資金調達は楽になっただろうが、それは「何があっても読売新聞を支え続けたい」という読者(がいたとして)に向けて「あなたたちの支えだけでは持たない」と告げたに等しい。そう告げられて読者たちはどう感じるだろうかということを経営者は想像しなかったのだろうか。
CLPの活動を私は当初から支援していた。既存のメディアではできないことをしたいという若いジャーナリストたちの志を高く評価したからである。だから、経営に行き詰まった時期に政党を「金主」にしたという話を知ったときにはずいぶんがっかりした。
実際には、CLPは立憲民主党から資金援助を得た後にクラウドファンディングで短期間に多数のサポーターからの経済的支援を獲得していた。「あんなに集まるとは思っていなかった」と代表の佐治くんから後になって聞いた。だが、個人の支援がこれほどあるとわかっていたら政党に資金援助を請う必要はなかったというのはやはり後知恵である。「支援してくれる人がきっといる。その人たちの支えだけで成り立つ規模の事業でよい」と腹を括るべきだった。「その人たちの支えだけで」というところがかんどころである。
きれいごとを言っているということは私にもわかっている。しかし、誰にも頭を下げたくないなら痩せ我慢するしかない。