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内田樹さんの「統一教会問題についてのインタビュー」(前編) ☆ あさもりのりひこ No.1210

今回の事件までLGBTや夫婦別姓の問題で、自民党が世論に頑強に抵抗する理由か分かりませんでした。国民の多くが支持している政策なら、それを採り入れた方が内閣支持率は上がるのに、どうしてやらないのかと不思議でした。「保守派への配慮」と新聞はいつも説明していましたけれど、統一教会のことだったのかと謎が解けました。

 

 

2022年7月25日の内田樹さんの論考「統一教会問題についてのインタビュー」(前編)をご紹介する。

どおぞ。

 

 

― 安倍首相と統一教会の関係がクローズアップされていますが、内田さんは旧統一教会とのかかわりはありましたか?

 

内田 統一教会と勝共連合の名を知ったのは1970年代はじめです。でも、名前だけで実体は知りませんでした。学部の頃は新左翼の時代ですから、原理研の活動する余地なんかありませんでした。院生になった頃にはじめて「原理」という名前を学生たちの口から聞くようになりました。勝共連合が60~70年代の全世界的なベトナム反戦運動や、学生運動・市民運動・労働運動、革新自治体の広がりといった「左傾」に対抗するために日韓の極右が連携して作った組織で、岸信介、笹川良一、児玉誉士夫らが絡んでいるということもその時に知ったと思います。

 

- 先生と統一教会の接点は?

 

内田 一度だけあります。75年に大学を卒業する時、統一教会から「3週間無料アメリカ旅行ご招待」という案内が来ました。卒業生全員にばらまいたわけですから「やたら金のある組織だな」と驚きました。たぶん、五人でも十人でも、統一教会に恩義を感じる人間を作っておいて、彼らがやがて中央省庁や一流企業やメディアや学界で出世したあとにそれなりの「見返り」を求める気だったんでしょう。

 

- 研究者になってからは?

 

内田 都立大学には院生と助手で13年いましたが、その間に原理がどうこうしたという話は聞いた覚えがありません。学部レベルではあったのかも知れませんが、研究室で話題に出たことはなかったと思います。90年に神戸女学院に赴任しましたけれど、こちらはミッションスクールですから、原理の浸入に対しては非常にナーバスでしたので、しばしば話題に出ました。でも、実際に学内での活動を見た記憶はないです。

 

- 聖書勉強会と言って近寄ってきますよね。

 

内田 ミッションスクールだと「聖書」の名がつく活動に対してはむしろ他の大学以上に警戒心を持っていますから、侵入は難しかったんじゃないですか。「以前に入りかけたけれど、水際で追い払った」という昔話は大学チャプレンから聞いたことがあります。

 

- では内田先生の統一教会に対する知識は殆ど報道を通じてなわけで、今回の事件をどう見られました。

 

内田 過去30年近く「統一教会」という文字列をほとんど新聞紙面で見ることがなかったので、もう教勢が衰えて、社会的影響力を失ったのだろうと思い込んでいました。でも、実際は逆で、そのメディアが沈黙していた間に、政界に強力なネットワークを拡げ、メディアが統一教会について報道することがタブーになるくらいの力を蓄えていた。そのことを知りませんでした。だから、銃撃事件の背景を聴いて、びっくりしました。「なんだ、まだ統一教会って活動してたのか!」って。

 

- 僕もそうですよ。編集者から「統一教会は尾行・盗聴とかされるから止めた方がいい」と言われました。ある編集長が事件後電話をかけてきて「これで(統一教会報道は)解禁だね」と言いました。

 

内田 大手メディアは最初の2日間、「統一教会」の名前を報道しなかったですね。これにも驚きました。政府は事件と統一教会のかかわりを知られることをひどく恐れている。そこまで深く癒着しているということは、この情報隠蔽工作から知れました。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                         

 

- 時折、週刊誌が「安倍晋三と統一教会の関係」という報道をするんですが、マスコミ全体が追いかけなかったんです。

 

内田 そうでしょうね。僕だって「世界基督教統一神霊協会」が「世界平和統一家庭連合」に改称されたなんてまるで知らなかったですから。霊感商法をまだやってることも知らなかった。ですから、事件後になって、被害者の会の弁護士たちの出てくる動画を見て、「霊感商法、まだやってるのか!」と驚きました。被害者が3万人で1237億円が「被害の氷山の一角」だということは、隠れている「氷山」の部分はどれだけ巨大なんでしょう。

 

- 今回の報道で大分知ったことが多かったんですか?

 

内田 そうです。この30年近く、仲間内で統一教会のことが話題になることなんか一度もなかったですから。

 

- 永田町を取材していたら安倍政権以降、統一教会が力を持ち始めたという噂はよく聞きました。

 

内田 知りませんでした。自民党が岸信介からの因縁で昔から統一教会と親密であることは知っていましたけれど、政策決定に影響を与えるところまで統一教会が入り込んでいるとは知りませんでした。Twitterでは極右の活動を研究している人を何人かフォローしています。その人たちが時々日本の政治家や言論人と統一教会の関わりを報じてくれるんですけれど、エピソード的なものですから、統一教会がこれほど隠然たる組織力を持っているとは思いませんでした。秘書を自民党に100人送っていたとか、有田芳生さんがテレビで話してましたけれど、そんなニュース、新聞でも大々的に報道してくれないと、ふつうの市民には届きませんよ。今統一教会について一番調べてるのは『やや日刊カルト新聞』の鈴木エイトさんだと有田さんが言ってましたけど、そんな方の名前も今回の事件で知りました。

 

- 『カルト新聞』を知らなかったですか? 創刊者の藤倉さんはよく知ってるんですが。

 

 

内田 知りませんよ。カルトなんてもうオウムで終わったことだと思っていたから。今回の事件までLGBTや夫婦別姓の問題で、自民党が世論に頑強に抵抗する理由か分かりませんでした。国民の多くが支持している政策なら、それを採り入れた方が内閣支持率は上がるのに、どうしてやらないのかと不思議でした。「保守派への配慮」と新聞はいつも説明していましたけれど、統一教会のことだったのかと謎が解けました。