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ものを作るという仕事はひとにたしかな自尊感情をもたらすので、その分だけ余裕があって、その分だけまわりに優しくなれるみたいです
2022年8月6日の内田樹さんの論考「自分のヴォイスを見つけるためのエクササイズ」(その8)をご紹介する。
どおぞ。
O川さま
こんばんは。内田樹です。
返信遅れて申し訳ありません。韓国ツァーがけっこうハードで、夜はもうばたんと眠ってこんこんと朝まで眠って、昼間も眠って・・・机に向かう時間がとれませんでした。日本に戻ってきて、ようやくちょっとだけ落ち着きを取り戻しました。でも、4日も家をあけると仕事がたまって、すごいことになってます。はふ。
さて、「捨てられないもの」は本とDVDでしたか。本の選別基準の話と、DVD二つ買っておいた話が面白かったです。
僕は本の選別基準を考えるのが面倒なので、どんどん書棚を拡大し続けましたが、1995年の震災のときと、2011年の凱風館への引っ越しのときに、物理的に「もう本を置くスペースがない」とわかったので、大量に処分しました。
そのときの基準は、本そのものの価値とはかかわりなく、「残る人生で手に取って読む可能性があるか?」でした。既読未読にかかわらず、そういうことってなんとなくわかるんですよね。
まあ、そのときも「捨てた後に、やっぱり読みたいと思ったときはアマゾンで金出せば手に入るし」ということを考えていたわけです。
そのときに「断捨離ができるためには、『欲しいときにはまた買えばいい』と言えるだけの貯えがいる」ということを学んだのでした。
ものを捨てたければ、金を貯めろ・・・って、なんか出口のない無限ループみたいですね。
今回はO川君の個性が「捨てられないもの」にはそれほど顕著には表われていないことがわかりました。課題ちょっとはずしましたね。では、次の課題です。ちょっと似てますけれど。
「片付けられない」
これだけです。
自分のことでもいいし、人のことでもいいです。あるいはこの言葉から思いついた「お話」 でもいいです。
がんばってね。
O川さま
こんにちは。内田樹です。
返信遅くなってすみません。「死のロード」と「死の締め切り」で半死半生だったのであります。
今日やっと少し時間ができて仕事以外のことができるようになりました。やれやれ。
課題ありがとうございました。
「これはまったくの仮説なのだけど、この机の上は自分の脳の状態を表しているんじゃないか。もっと言えば、「こういうことを考えていたい」という願望を表しているのではないか。」
というところ、僕もまったく同意見です。
僕の場合は本棚です。これは明らかに「僕の脳内を可視化したもの」です。
というより、「僕の脳内を可視化したものだと人に思われたいもの」です。ややこしいね。
つまり、僕の本棚には「既に読んだ本」と「これから読む本」が渾然と並んでいるわけですけれど、実は80%くらいは「これから読む(はずの)本」です。
でも、それを書棚に飾って誇示しているのは、書斎を訪れた人に「こういう本を読んだ人」だと「勘違い」されることを願っているからです。
つまり、脳内そのものではなく、「ウチダの脳内はこんなふうになっていると思われたいイメージ」ですね。
でも、実際に僕たちがものごとの正否を判断したり、好き嫌いを言ったりするときの基準になるのはかなりの程度まで「ウチダだったら、きっとこう言うだろう」という他者が僕について持つイメージの方であるわけです。
せっかくのイメージを壊しちゃいけないから・・・というので無理やりにも、不本意ながらも、「いかにも」僕らしい言動を重ねているうちに、どんどんそういう人間になってゆく。
書棚とか、住んでる家のインテリアとか、着てる服とか、にはそういう規範力があるんです。だから、なかなか侮れないのであります。
家を片付けられない人というのは、実は「他人からどう思われるか」ということをあまり気にしないで、自分にとってどういう配列が「気分いいか」を基準にしている人だと僕は思っています。
むかし結婚していたときの義妹(もう亡くなってしまいました)は他の部屋はきちんと片付けているのですが、自分はミカン箱の上にFM雑誌とトランジスタラジオとやかんがあるだけの畳の部屋にござを敷いて暮らしていました。どうして?と訊いたら、夜中にござの上で寝ながらFMラジオを聴いている途中で喉が渇いたらやかんから水を飲むのだと説明してくれました。
それらのものは彼女の生理的欲求に基づいてきわめて合理的に配列されていたのでした。
さて、次も「自分というシステム」の「穴」についての考察です。
課題は「思い出せない」です。
「思い出せない」というキーワードをどこかで使ってくれれば、どんな話でもいいです。
では、がんばってね。
O川さま
おはようございます。内田樹です。
課題ありがとうございました。
「思い出せない」はむずかしかったですか。なかなか課題の難易度は予測しがたいですね。ごめんね。
たしかに「思い出せない」ことは、「思い出せないということそのものを思い出せない」というかたちで二重に封印されているから有効なんですよね。別にO川君自身の話じゃなくて、「どうしてこのひとは『あんなこと』を忘れちゃっているんだろう・・・」ということでよかったんです。そういうふうに特定すればよかったね。
転職された由、いろいろと事情があってのことと思いますが、お酒を造る現場の仕事になったというのはとてもいいことだと思います。ものを作るという仕事はひとにたしかな自尊感情をもたらすので、その分だけ余裕があって、その分だけまわりに優しくなれるみたいです(まわりの人に「オレを尊敬しろ」って強要しなくても、自分で「けっこうやってるなあ、オレは」と確信できるからでしょうか)。
お酒作りに精進してくださいね。
では、今回の課題はそれから関連して思いついた「オトコのプライド」です。
ちょっとむずかしいかな。「オトコ」というカタカナ表記にちょっと含意をこめました。お気楽なエッセイのつもりで書いてください。
では、がんばってね!