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今回の国葬の最大の問題は「どうして安倍元首相が法律に定めのない儀礼によって超法規的に顕彰されねばならないのか」の理由を岸田首相が明らかにしていないことである。
2022年11月13日の内田樹さんの論考「国葬反対デモに行ってきた」をご紹介する。
どおぞ。
国葬反対のデモが三宮であった。デモ出発前のスピーチを頼まれたので、10分ほどマイクを握ってお話をした。昔はデモの前にするのは「アジテーション」と呼ばれていたけれど、いつの間にかより穏健な「スピーチ」という表記に替わったようである。こんな話をした。
国葬についての議論はいつの間にか「国葬反対」と「国葬反対に反対」というかたちになってしまった。「葬式なんだからつねの世間の付き合いと同じく黙って参列すべきだ。葬儀に反対するなんてマナー違反だ」というのが「国葬反対に反対」論の基本形のようである。
だが、この言い分は通るまい。安倍元首相の葬儀はもう終わっている。誰も増上寺での葬式に反対なんかしていないし、「オレは出ない」と意思表示した人がいたという話も聞かない。問題になっているのは葬式ではなく、閣議決定された「国葬」である。ただの葬式ではない。公金を投じて、公務員を動員して行う儀礼である。それにもかかわらず、法的根拠がなく、国会での審議を経ていない。いわば「超法規的措置」として実施される儀礼である。
緊急の時や、ごく例外的な状況においてなら、内閣が主導して「超法規的措置」を採ることは「あり得る」と私は思っている。だが、その場合には「超法規的措置が採られることになった必然性」についての説明はなくてはすまされまい。今回の国葬の最大の問題は「どうして安倍元首相が法律に定めのない儀礼によって超法規的に顕彰されねばならないのか」の理由を岸田首相が明らかにしていないことである。
たしかに「首相在任期間が憲政史上最長であった」と「内政外交で実績があった」ということは口にした。だが、彼の在任期間が例外的に長かったのは党規約を変えて、2期で終わるはずの総裁任期を3期に伸ばしたからである。在職期間の上限を変えておいて、他の宰相たちより「在職期間が長い」ことを「功績」にカウントすることはできない。内政外交での功罪はこれから時間をかけて検証し、いずれ後世の史家の判断を待つべきことであって、死後1週間で「棺を覆いてこと定まる」と前のめりになるような話ではない。
過去に超法規的に国葬に付されたのは吉田茂だけである。岸信介も池田勇人も佐藤栄作も田中角栄も中曾根康弘もそのような扱いを受けていない。だとしたら、この超法規的措置が適切なものであることを国民に納得してもらうためには「安倍晋三はこれらのすべての政治家たちとは比較を絶して卓越した政治家であった」ということを岸田首相は情理を尽くして、雄弁の限りを尽くして語るべきであった。
けれども、彼はそれをしなかった。手続きに瑕疵はない、理屈はつけられるということまでは言った。けれども、「世の中には仮にルールを破ってでもやらなければならないことがある。今がその時である」と国民をかき口説くことはしなかった。法的根拠のないことをするなら、それくらいの努力はすべきだったと私は思う。それをしておけば、「国葬には賛成でも反対でもない」というグレーゾーンの国民たちは、首相の故人に対する真率な敬慕の念に感動して、「国葬賛成」に意を決したかも知れない。でも、首相はそれを試みなかった。なぜか。それは「安倍晋三は憲政史に屹立する卓越した大政治家である」と岸田首相自身が信じていなかったからである。
その熱意のなさが首相自身の言動の端々から漏れ出て、国民にそのまま伝わってしまったのである。言い出した人がこれでは、国民の3分の2が反対することになっても仕方があるまい。