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内田樹さんの「『生きづらさについて考える』単行本あとがき」(その1) ☆ あさもりのりひこ No.1281

ファシズム体制で戦争を始めて、敗北した国では、戦後しばらくしてから、子どもが生まれなくなった

 

 

2022年12月12日の内田樹さんの論考「『生きづらさについて考える』単行本あとがき」(その1)をご紹介する。

どおぞ。

 

 

 みなさん、こんにちは。内田樹です。

 最後までお読みくださってありがとうございます。

 ご覧の通り、これはさまざまな媒体に書いたエッセイのコンピレーション本です。『サンデー毎日』に何年か前から不定期に長文の寄稿をしておりますので、そこにこれまで書き溜めたものがベースになっています。その他は新聞や雑誌に書いたままハードディスクの底に眠っていたものを集めて、一冊にしました。

 頭から書き下ろしたものとインタビューを添削したものが混在しているので、文体もタッチもひとつひとつで違って、統一感を欠く憾みはありますが、まあ、それも気分転換になって読みやすいかも知れません。

 今回、単行本にまとめるにあたってゲラを通読しましたが「ううむ、暗いなあ」と思いました。時事的なものを書くとどうしても暗くなっちゃうんですよね。他のエッセイ集でしたら、ところどころで武道や宗教の話、映画や文学の話も出てて、ちょっと「コーヒーブレーク」が取れるんですけれど、本書のように、政治の話ばかりしていると、どこまでも果てしなく暗くなります。

 そこで「あとがき」では「お口直し」に、「どうして現代日本で政治について語るとこんなに暗くなるのか?」という話をしてみたいと思います。変な話ではありますが、それほど暗い話ではありません。ちょっと座り直して読んでくださいね。

 

 日本が高齢化していることは皆さんご存知ですよね。ある国の高齢化の程度を知るためにはいろいろな指標がありますが、その一つは「中央年齢」です。

「中央年齢」というのは、「その年齢よりも上の世代と下の世代の人口が同数」であるような年齢のことです。日本の中央年齢は45・9歳。堂々の世界一です。

 ちなみに世界で一番中央年齢が低いのはニジェールで15.0歳。これは「若い国」であるというよりは、たぶん治安が悪すぎて長生きできないということなので、ニジェールの人たちにとっても、あまりうれしい数字ではないと思います。

 ちなみに中央年齢が17歳以下なのは、他には東ティモール、ザンビア、アフガニスタン、アンゴラ、マリ、ソマリア、ウガンダ、チャドなどがあります。どうやら国内で内戦やテロが続いて、統治機構が満足に機能していなくて、公衆衛生のレベルも低いという国が「若い国」のようです。だとするなら、日本の45・9歳は、日本がいかに治安がよく、統治機構がきちんと機能していて、公衆衛生への気配りが行き届いているかを示す「先進国指標」だと解することもできます。

 豊かで安全なのだけれど、なぜか子どもが生まれない国。

 それが中央年齢の高い国のとりあえずの特性だということになります。

 他の国の中央年齢を見ると、フランスが40.6歳、イギリスが40.2歳、韓国が39.4歳、ロシアが38.3歳。なんとなく、「そうだろうな」というような数字が続きます。

 面白かったのはアメリカと中国が同率40位ということ(37.4歳)。世界の覇権を競う二大国が人口の年齢構成が近いんです。ふうん、ですね。でも、この後、アメリカはそれほど高齢化しませんが、中国は一人っ子政策のせいで急激に高齢化します。その人口構成の「若さ」の差が、いずれは国力の差に反映してくるのでは・・・と僕は考えております。

 でも、僕は今そんな話をしたいんじゃないんです。違う話です。

僕が、日本の中央年齢を確認している時に、一瞬、目の端に「2位ドイツ 3位イタリア」という文字列が見えたのです。日本、ドイツ、イタリア? その三国において中央年齢が高い? それ、どういうこと?

 そして、リストの続きを見て驚くべき事実を発見しました。

 まずはそのリストをご覧ください。

 1位日本 2位ドイツ 3位イタリア 4位ブルガリア 5位ギリシャ 6位オーストリア 7位クロアチア 8位スロベニア 9位フィンランド 10位ポルトガル

 どうです。わかりましたか、これらの高齢化国の共通点が。

 そうです。ポルトガル以外の9つの国と地域はすべて「第二次世界大戦の敗戦国」なんです。スロベニアはナチスに占領されて対独協力していた「地域」で、厳密な意味での「敗戦国」には当たりません。ポルトガルは中立国でした(サラザール独裁のファシスト国家でしたが)。

 このリストから言えることはとりあえず一つ。

 それは「ファシズム体制で戦争を始めて、敗北した国では、戦後しばらくしてから、子どもが生まれなくなった」ということです。

 

 戦後しばらく経ってからなんです。ここに僕は興味を惹かれました。