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「決められた手順」が「首相も知事も議員も決して被災地入りしてはならない」であったとしたら、それには「今の時点で原発がどういう状態になっているかわからない」というのが最も蓋然性の高い理由である。
2024年1月26日の内田樹さんの論考「初動の遅れについて」をご紹介する。
どおぞ。
1月12日に「政府と県の初動遅れは原発マターだろう」ということを信濃毎日に寄稿した。その時点では、裏のとれない推測だったけれども、その後にやはり原発が「警戒事態」相当であったことがわかった。
志賀町では震度7を記録した。原子力災害対策指針によれば、原発所在市町村で震度6以上の地震が発生した場合は「警戒事態」とみなされる。「警戒事態」認定されれば、原発5キロ圏の高齢者や妊婦らは避難準備を始めなければならず、搬送先や輸送手段の確保も求められる。もちろん発災直後であるから、避難準備も搬送先も輸送手段も国にも県にも何一つできるわけではない。だから、「原発はなんでもありません」と言い張るしかなかったのである。
私の推理を再録する。
能登半島の地震の被災者の救難活動が遅れている。とりわけ最初に大々的に報道されたのが所属国会議員による被災地視察の自粛についての六党申し合わせであったことに私は強い違和感を覚えた。ジャーナリストやボランティアについても「現地に入るな」という組織的な投稿がネットではなされた。不要不急の人間が被災地にいると救助活動の妨害になるからという。ドローンも飛ばしてはならないと指示された。ヘリコプターの救難活動の邪魔になるからという。岸田首相自身「私も被災地に入らない」と明言した。
正直言って、この発言の真意が私にはよくわからなかった。総理大臣は救助活動の指揮官である。その指揮官が「私が現場に行くと救助活動の邪魔になる」と自分で言うということがあり得るだろうか。「ない」と私は思う。現場に行って邪魔になるような指揮官なら後方にいても役には立つまい。
初動の遅れについて政府の不手際をなじる論調がメディアでは支配的だ。別に官邸機能が麻痺するような大事件が起きたわけではないのだから、首相は決められたマニュアル通りに対処したはずである。そして、「決められた手順」が「首相も知事も議員も決して被災地入りしてはならない」であったとしたら、それには「今の時点で原発がどういう状態になっているかわからない」というのが最も蓋然性の高い理由である。
モニタリングポストが壊れて、放射性物質の飛散状況が正確に確定できなかったのだろうか。だとしたら、確定的なデータが取れるまで「政府要人は現地入りしない方がいい」というのは合理的な判断である。
「初動が遅い」という批判に対して政府が「いや、マニュアル通りに行動しました」という弁明をなさなかった合理的な理由として私はそれしか思いつかない。もし、それ以外の理由があり得るとしたら、誰か教えて欲しい。