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内田樹さんの「フリーライダーの効用」 ☆ あさもりのりひこ No.1503

「集団の中で最も弱いものをも取り残さず救える仕組みを作る」ためにどうすればいいのかについて深く思量することは(たとえそれが実現できなくとも)、集団を生き延びさせる上では有用だ

 

 

2024年3月11日の内田樹さんの論考「フリーライダーの効用」をご紹介する。

どおぞ。

 

 

高齢者の集団自決が高齢化対策の秘策であると公言した若い経済学者の発言が話題を呼んでいる。

 彼の言う「人間は引き際が重要だと思う」ということにも「過去の功績を使って居座り続ける人がいろいろなレイヤーで多すぎる」という事実の摘示にも私は同意する。でも、使えないやつは有害無益だから、集団から追い出すべきだという論には同意しない。人道的な立場からというよりは組織人としての経験に基づいてそう思うのである。

 組織に寄生して、何も価値を生み出さず、むしろ新しい活動の妨害をする「フリーライダー」はどのような集団にも一定数含まれる。この「無駄飯食い」の比率を下げることはたしかに集団のパフォーマンスを向上させることにある程度までは役立つだろう。ただし、「ある程度」までである。というのは「無駄飯食いの排除」作業に割く手間暇がある限度を超えると、その作業自体が集団のパフォーマンスを著しく低下させるからである。

 組織を率いた経験がある人なら誰でもフリーライダーを一掃する秘策が存在しないことを知っている。そんな暇があったら、組織を活性化し、新しい価値を創出してくれる「オーバーアチーバー」を一人でも増やし、彼らが愉快に働ける環境を整備する方がはるかに費用対効果がよいということも知っている。

 

 それに、若い方たちはご存じないだろうけれど、あらゆるパニック映画は「強者だけのグループを作って、自分たちだけ助かろうとする人たち」と「子どもや老人を一人も取り残さないために無理をする人たち」が対比されて、「自分たちだけが助かろうとする人たち」がまず死ぬという話型を繰り返している。「集団の中で最も弱いものをも取り残さず救える仕組みを作る」ためにどうすればいいのかについて深く思量することは(たとえそれが実現できなくとも)、集団を生き延びさせる上では有用だということを人類は早い段階で学んだのである。(2023年1月16日)