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「日本と韓国が核武装すれば、誤認、誤算、事故の可能性が高まり、核による大惨事のリスクが高まる。このような危険に満ちた現実に直面すれば、北京はアメリカの圧力に屈し、本格的な軍備管理協議に入るかもしれない。」
米国人のこのワイルドな正直さには胸を衝かれる。だが、日本のメディアはこういう米国の「本音」を決して伝えない。
2024年9月30日の内田樹さんの論考「日韓の核武装」をご紹介する。
どおぞ。
韓国内で核武装論が高まっている。世論調査では6~7割の国民が核武装を求めている。北朝鮮の脅威が強まっているせいだ。核ミサイル発射実験を繰り返す北朝鮮はすでに北米大陸を射程距離にとらえる大陸間弾道弾の開発まで進んでいる。
理由はそれだけではない。米国が「東アジアから撤収する」可能性を韓国民は感知しているのである。「あとは自分たちの才覚でなんとかしてくれ」と言って東アジアから米国が引いた場合、韓国はどうやって隣国と向き合ったらよいのか。
たしかに米国は今も軍事力、経済力では世界に冠絶する超覇権国家である。けれども、国内の分断は深く、「アメリカ・ファースト」を掲げた大統領を選んだ時点ですでに「グローバルリーダーシップ」を放棄している。バイデン政権がガザの虐殺に効果的な抑制を果たし得なかったことで米国の道義的威信はさらに下落した。
最近読んだ米国の外交専門誌Foreign Affairs Report の論文では、「日韓に核武装させたらどうか」というずいぶん乱暴な主張が掲げられていた。安倍元首相はじめ「一部の自民党指導者が核により許容的な立場をみせるようになった」ことの効果として日本人の核アレルギーは緩和しつつある。キッシンジャー元国務長官は昨年「5年以内に日本は核保有国になる方向に向かう」という見通しを語っていた。
この論文の趣旨は要するに日韓核武装という「威嚇策」をちらつかせることで中国から外交上の譲歩を引き出せるのではないかというものであった。「日本と韓国が核武装すれば、誤認、誤算、事故の可能性が高まり、核による大惨事のリスクが高まる。このような危険に満ちた現実に直面すれば、北京はアメリカの圧力に屈し、本格的な軍備管理協議に入るかもしれない。」
米国人のこのワイルドな正直さには胸を衝かれる。だが、日本のメディアはこういう米国の「本音」を決して伝えない。(信濃毎日新聞9月27日)