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内田樹さんの「歓待する学校」 ☆ あさもりのりひこ No.1638

学校も同じだと思います。一番大切なのは「歓待」です。まず「よくいらっしゃました」と子どもたちを受け入れる。そして、ひとりひとりを固有名で認知して、「ここが君たちの場所だよ」と保証してあげる。そして、「私は君たちがここにいてくれて、とてもうれしい」と告げる。

 歓待と承認と祝福。

 

 

2024年12月19日の内田樹さんの論考「歓待する学校」をご紹介する。

どおぞ。

 

 

2023年度に不登校と判定された児童生徒は36万6000人。前年度を5万人上回り、過去最高を記録しました。毎年ほぼ5万人ペースで不登校が増えています。これは「異常」事態と言ってよいと思います。

 今これを読まれている中にも、過去に不登校の経験があったという人はきっといると思います。僕も小学校5年生のときに「いじめ」にあって不登校になり、転校することになりました。高校二年の時も不登校になり(これは受験勉強が嫌で)、そのまま高校を中退してしまいました。大学四年生の時もどうしても大学に行く気がしない時期が長く続きました。そういう人間ですから、「学校に行きたくない」という気持ちはよくわかります。なんというか学校に「来るな」と言われている感じがするんです。特定の先生が嫌だとか、特定の友だちが嫌だとかいうのじゃないんです。「学校というシステム」が嫌なんです。そこを支配している価値観と折り合いがつかないんです。

 小学生から大学生まで「学校に『来るな』と言われている」と感じることが何度かあった人間がどうしてそのあとわざわざ大学院まで行って、大学の先生になったのかというと、「お気楽な学校」を作りたかったからです。絶対に人を拒まない。来る人すべてを歓待する、そういう学校の先生になりたかった。

 学校にとって最も大事なことは「歓待すること」だと僕は思います。教員を40年間やりましたし、武道の道場の師範は35年やっていますけれど、その信念は揺らいだことがありません。

 武道の場合、上達するためにはとにかく稽古を継続することが大切です。ほとんどそれだけです。倦まず弛まず稽古をする。そして、稽古を続けるために一番必要なのは「明日もこの道場に来たい」という気持ちになることです。道場に行くと周りの人間が意地悪で、稽古もつらいだけという条件下で長く稽古を続けることは誰にもできません。

「はい、稽古終わります」と告げられると「え、もう終わりなの...」とちょっとがっかりして、早く次の稽古の日が来ないかなと思う人が一番上達が早い。それは誰にでも分かりますよね。

 だから、僕は自分の道場を「歓待の場」にすることにしました。

 みんなが来る前に道場を清め、ここでよい稽古ができますようにと強く祈ります。そういう僕の気持ちはみんなにも伝わるはずです。

 

 学校も同じだと思います。一番大切なのは「歓待」です。まず「よくいらっしゃました」と子どもたちを受け入れる。そして、ひとりひとりを固有名で認知して、「ここが君たちの場所だよ」と保証してあげる。そして、「私は君たちがここにいてくれて、とてもうれしい」と告げる。

 歓待と承認と祝福。

 僕はこれこそ教師が学校で果たすべき最もたいせつな仕事だと思います。それができれば、教科を教えることなんか、はっきり言って、どうでもいいんです。子どもたちが「学校が楽しい。学校に行きたい」という気持ちになってくれたら、授業だって「気がついたら最後まで面白く聴いてしまった」ということが起きるんですから。

 僕の敬愛する作家の橋本治さんは「私にとって学校というのは、小学校の後半から中学高校にかけて、ほとんど天国のようなところだった」と書いています。よほど楽しかったんでしょうね。お掃除当番が大好きだったっていうくらいですから、当然授業も好きだったんでしょう。だから橋本さんは受験勉強しないで東大に入ってしまった。

 ことの順序は「学校が楽しい。」だから「気がついたらつい授業も聴いてしまった」でいいと思うんです。

 そういう学校ばかりだったら不登校なんかきっとないと僕は思います。

(蛍雪時代11月号)