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内田樹さんの「アメリカがもたらすカオス」 ☆ あさもりのりひこ No.1646

日本のメディアに対してはいろいろな不満があるが、最大の欠点は「不正直」であることだと私は思っている。

 

 

2025年1月15日の内田樹さんの論考「アメリカがもたらすカオス」をご紹介する。

どおぞ。

 

 

 年初は「今年世界はどうなるか」を予測することにしている。「これから世界はカオス化する」というのが私の予測である。異議のある人はおそらくいないだろう。カオス化を主導するのはもちろん米国である。

 ドナルド・トランプは国より憲法よりも彼個人に忠誠を誓う人々を要職に登用して、米国の新しい「国王」になる気配である。

 グリーンランドとパナマを領有し、メキシコ湾を「アメリカ湾」と改名し、カナダを併合し、同盟国にGDP5%の国防費負担を要求するなど、ほとんど日替わりで「米国の新しい要求」がニュースになる。超覇権国家がここまで節度を失う日が来るとは誰も想像していなかっただろう。

 米国にはさいわいまだ自由なメディアが残っている。だが、米国の媒体の行間に「恐怖感」がここまで露出したことは私が知る限り過去にはなかった。これから先米国はどうなるのか、米国人自身が「どうなるかわからない」のである。

「困惑する」という点については、米国のメディアは日本のメディアよりはるかに正直だと思う。わからないことは「わからない」と書くし、不安を感じているときは「不安だ」と書く。いま中国と戦争をしたら「敗ける」と米軍幹部でさえ言明する。もし日本で自衛隊幹部が似たような不安を口にしたらメディアによって袋叩きにされるだろう。

 日本のメディアに対してはいろいろな不満があるが、最大の欠点は「不正直」であることだと私は思っている。どんな問題が起きても「涼しい顔」で報道することが報道のマナーだと信じているのだろうか。

 

 だが、わからないことは正直に「わからない」と書いた方がいい。怖いことが起きたら正直に「怖い」と書いた方がいい。「わからない」「怖い」と書くことのできる人間だけが、「これだけは理解できること」や「恐怖から抜け出すための道筋」について考え始めることができるからである。(信濃毎日新聞、1月10日)